新田信行氏 特別顧問就任記念セミナー「アフターコロナへの提言~ポストゼロゼロ融資について語る~」レポート 前編
一般社団法人日本財務経営協会に、新田信行氏が特別顧問として就任致しました。新田氏が持つ金融業界における豊富な経験と、金融行政人脈及び全国の金融機関とのネットワークを活かし、中小企業の皆様の経営課題、後継者問題を解決し、日本社会のサスティナビリティを高めてまいります。本稿では、2022年10月26日に開催された、特別顧問就任記念セミナーの様子を一部ご紹介致します。
中小企業支援の輪を全国に広げる
当日の特別顧問就任記念セミナーを主催した一般社団法人日本財務経営協会は、
「お客様の輝かしい未来のために!」
という言葉を掲げ、「会社の利益最大化」「会社の発展・継続」を実現するために中小企業の“財務経営力”を強化することを目的としています。
・士業が、もっと積極的に中小企業と金融機関の橋渡し役になるために
・金融機関と士業の関係をより深くするために
また、ゼロゼロ融資が終わり、これから本当の不況が来る。そんな時代に備えるため、新田氏をお迎えして「アフターコロナへの提言~ポストゼロゼロ融資について語る~」というテーマでお話いただきました。
私たちSAKURA United Solutionは、金融機関、自治体、士業・専門家が広く深く連携し、中小企業の皆様の課題解決を積極的に実行していくべきと考えています。しかし、私たちだけでは全国各地まで対応しきれません。そのために、日本財務経営協会がそれぞれの立場を越えて連携するためのプラットフォームになります。
すべては、中小企業の「お客様の輝かしい未来のために!」
そして、新田氏が代表理事を務められている「ちいきん会」は、金融機関や公務員の有志の方々が肩書きを外して集まる場です。中小企業経営者に伴走し、貢献する有志を募り、全国展開を加速していきたいと思っています
「ゼロゼロ融資」とは何だったのか
新田氏は、2013年から2020年まで第一勧業信用組合理事長、会長を務められ、現在は開智国際大学客員教授、地域金融機関の有志が集まる「ちいきん会」代表理事としてもご活躍されています。年間の講演回数は100回を超え、地方創生など日本の未来のために精力的な活動を続けていらっしゃいます。
セミナーのはじめに、「ゼロゼロ融資」とは何だったのか。その性質について改めて説明されました。
ゼロゼロ融資は、「実質利子ゼロ・担保ゼロ(保証協会100%保証)」という、コロナ禍という先行きが見えない中での緊急対応でした。資金使途・返済方法について検討できずに融資が実行され、「今が極めて大事な時期である」と新田氏は言います。
・当時、日本政策金融公庫もパンク状態だった
・切羽詰まっているにもかかわらず、申し込んでも2か月待ちの状態
・コロナ融資の貸し出し残高は約234万件、約42兆円
・政府系金融機関で約18兆円、民間金融機関で約23兆円
「資金使途もわからない。返済方法もわからない。そんな融資は普通ではない。通常、金融機関は借入の申し出があると、何の資金なのか。運転資金なのか、設備資金なのか。返済できる根拠は何なのかを確認する。当時は緊急事態だったので、検討せずとにかく融資した。金融規律が狂うと当時から感じていた」と新田氏は語ります。
そして現在、借換の円滑化に向けた新たな保障制度が告知されています。「ゼロゼロ融資」借り換え、保証限度は1億円 経産省案(日本経済新聞)によると、以下の内容です。
経済産業省は1日、新型コロナウイルス対策として実施した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済負担を軽減するための借り換え保証制度の案を示した。保証限度額は1億円とし、民間金融機関のゼロゼロ融資の上限額の6000万円を超す設定とする。
同日に開催した中小企業政策審議会で示した。100%保証の融資は借り換え後も100%での保証を維持し、保証料は低い水準に設定する。保証期間は10年以内、元本の返済を猶予する期間は5年以内とする。有識者の意見を踏まえたうえで、財務省などと調整し正式決定する。
ゼロゼロ融資はコロナ禍で売り上げが減少した中小企業を支援するため導入した。2023年7月以降に返済が本格化するため、経産省は今後借り換え需要が高まるとみている。
出典:ゼロゼロ融資」借り換え、保証限度は1億円 経産省案|日本経済新聞
「ポストゼロゼロ融資」でなにが変わるのか
新田氏から、当日参加した金融機関関係者に対して「今すべき2つのポイント」が解説されました。「コロナ禍の緊急対応は、本来すべき審査を先送りしただけで、これからが本番」と、新田氏は仰います。
今すべき、2つのポイント
① 最新の実態バランスシートの確認
∟借入に見合う資産はあるか
② 今後の資金繰り見通しの作成
∟今後、償却前利益はプラスを確保できるか
「これから、コロナ前に戻ることはない。コロナ前の状況に戻る想定でいてはいけない。(特に国を越えた)物流の問題や労働力不足の問題がすでに生じている。そんな中でも、いかにして事業を行っていくのかが、今まさに試されている。では、見合いの資産がない場合はどうすれば良いのか? 」についても新田氏から解説されました。
自己資金不足、債務超過の場合、
・社長の個人資産はあるか?
・抜本的な対策は必要か?
・今後の収益力は?
・資産処分の必要性は?
・資本の増強(増資、DES、DDS)は必要か?
・債権放棄は必要か?
など、金融的な外科手術が必要なこともあるものの、そのノウハウを持っている金融機関と、持っていない金融機関があるのが実状であると言います。
また、赤字が続く場合は、
・経営者は本業の再生に全力投球すること
・期間を設定し、取り組み施策を具体的にすること
・金融機関の金融支援では、元本返済猶予や金利減免棚上げ
が必要になり、「資金繰りの出血を止める相談相手が欠かせない」と仰います。
「さらに、過去の決算書を見ても事業性評価はできない。今見える“実”や“葉”ではなく、“根”を見る。『来年、実がなるのかどうか』を知るためには、根っこを見ないとわからない。過去の連続性だけでは、事業性評価はできない」と、新田氏は鋭く切り込みます。
そもそも、「資産」とは何なのか?
「見える資産には、モノやカネ。具体的には、現預金や在庫、不動産、機械設備などがあり、見ない資産・簿外の資産には、経営者の経営能力や従業員の能力、会社との絆、お客様との絆などがある。この見えない資産の重要性が、今後は増していく」と、見えない資産・簿外の資産を見る力の必要性についても語られていました。
(後編に続きます…)
【新田 信行(にった のぶゆき)特別顧問 プロフィール】
1956年生まれ、千葉県出身。1981年に第一勧業銀行(現・みずほ銀行)入行。
みずほフィナンシャルグループ与信企画部長を経て、2011年にみずほ銀行常務執行役員。
2013年から2020年まで第一勧業信用組合理事長、会長。開智国際大学客員教授。
地域金融機関の有志が集まる「ちいきん会」代表理事。